避難所生活(長期避難の場合)

避難所生活長期滞在ノウハウ

避難所に長期滞在となった場合、最も重要なのは「自分の心身を守ること」です。

ここでは、数日以上の長期的な避難生活についてお話します。

慣れない場所で、見知らぬ人たちとの共同生活は心身不調を訴える人が多くなります。健康な成人でも、高齢者乳児と避難することで、体力的にも精神的にも限界が訪れます。

避難所生活(長期避難の場合)
目次

大災害直後の避難所運営は避難者自身が運営している

国が推奨するBCP計画(事業継続計画)を職場で見たことがある方も多いと思います。大規模災害時でも、事業サービスが途絶えてしまわないように、時間単位で業務の優先順位を決定し、職場の全員に知らせておくものです。

<参考>
内閣府 事業継続・知る BCP計画策定事例

電気、ガス、上下水道といった公的サービスを提供している会社や公営企業などは、1日でも早い復旧が減災に効果的です。避難所も行政がBCP計画をつくっており、1時間でも早く避難所を運営できるように計画し公表しています。

しかし、現実的には避難所開設は想定通りにできません。

役所職員や消防士、警察官もただの人間です。大地震が発生した時、避難所開設担当者も必ず被災者となっているからです。

避難所を開設する職員も、目の前で被災している人を投げ出してまで避難所開設に向かうことはできません。また、避難所へ向かうための道路が崩れていたりすればどうすることもできない場合があります。

BCP計画が策定されていたとしても、3日間は避難者自身が避難所運営できるようにしておくことが現実的です。

有事には、自主防災会の方や街の医師、地域ボランティアの方々などが率先して避難所運営を自発的に運営してくださいます。しかし、そういった心優しい方々から順番に心身の限界が訪れます。

「どうしてもっとちゃんとしてくれないの!」と声高に言い寄る避難者がいます。しかし、発災直後の避難所では、まったく訓練を受けていないただの素人が好意で避難所運営していることが多いことを理解してほしいと思っています。もし自分の不満や不安をぶつけたくなったら、まずは備蓄品を運ぶなどの単純作業に協力してもらえたら、状況把握もでき、作業も早く完了するのでお勧めです。

避難所運営に苦情を言う人々

自分のためにも周囲のためにも、避難所では自分の心身コントロールが最も重要です。

避難所では自己管理が重要

避難所生活が長期になると、通常生活でガマンできていたことに限界が訪れます。特に、余震が続く避難所ではいつまた大地震が発生するかわからないといった不安が絶え間なくつづきます。

有事に耐えられる人はほぼいません、具体的にガマンの限界を超えるのは次の2つ。

  1. 身体的なガマン
  2. 精神的なガマン
避難所での身体的ガマン

被災地で大活躍した自衛隊員や消防隊員でさえも、睡眠を削り、非日常的な世界で相当なストレスを感じています。当然、日々の訓練で心身ともに常人とは比べ物にならない底力をもつ人たちですが、心身を壊してしまう人が続出しました。

結果、被災地には救助活動者向けの内科医や精神科医が派遣されたことはニュースで見た人も多いと思います。

一般人であるわたし達なら、ガマンの限界はすぐにきてしまいます。限界が来ると具体的にはどのような不調がでるのでしょうか。

身体的なガマン

避難所では食糧不足を目の当たりにして、食事を控える人がいます。

単純に栄養不足となり、めまいふらつき風邪を引きやすくなるといった症状から、便秘や下痢を繰り返すなどの症状が出やすくなります。

断水中のトイレは決して衛生的でないため、水分を取らない人が増えます。脱水症状になるだけではなく、のどが乾燥するので、常にすきま風のある避難所では多くの人が風邪を引いたり咳き込んでいます。

さらに、荷物のそばを離れられないため運動不足になり、場合によってはエコノミークラス症候群(血流が少なるため血栓などができる病気)を発症することがあります。

長期避難所生活では運動不足になりがち
イスもないので腰痛を訴える人が多くなる

精神的なガマン

大きな避難所は体育館や公民館のホールなど、反響音が発生しやすい場所に設置されることがほとんどです。

騒音や他の避難者の行動、続く余震で不安が続く、家族の安否が不明なままであるといった精神的な不安定が絶え間なく続き、気を晴らすような娯楽が一切ないことから辛さが倍増します。

症状としては、不眠症になる、じんましんが出る、情緒不安定になといったものが代表的です。

結果的に、身体にも症状が出始めてしまいます。

避難所生活による心の病気
一人で避難している場合は心身の不調が出やすい

避難所でストレスを感じない人は誰もいません。避難者はもちろん、救援活動をしている人たちも過度なストレスを抱えたまま、終わりのない作業を続けています。

まわりを思いやる余裕は誰にもありません。あなたの不調に気づく人はいないのです。自分の心身は自分で管理する他ないのです。セルフコントロールすることで、他人に頼るというストレスの解消だけは可能です。

誰もが不安な状況であることを理解したい
避難所ではすべての人が不安を抱えています

自分の心身は、自分で管理するんだという強い意志を持って避難所生活を送りましょう。

運動不足の解消には、同じ趣味の人や、同業種の人を見つけたら散歩友達になって、2時間おきにでも避難所内を散歩するなどがおすすめです。

若手でやる気満々なら、避難所運営のボランティアを進んで引き受けましょう。やるべきことがあるので、運動不足にはなりませんし、避難所の状況把握もできるので不安解消にもなります。

心身ともに健康なうちは、ぜひ避難所運営に参加しましょう。得することはあっても、損することはほぼありません。

長期避難で困るトイレ問題

断水中の長期避難ではトイレ問題が発生します。

断水で水を流すことができないため、トイレが不衛生になり、だれも使えない状況になります。このため、水分を取らず、じっとする人が増えるため、エコノミー症候群を発症する人が増えるのです。

避難所の簡易トイレ、マンホールトイレ、仮設トイレ
できるだけ定期的にトイレに向かいましょう

<参考>
内閣府 避難所における トイレの確保・管理ガイドライン

日本では、阪神淡路大震災の避難時に関する研究で、トイレ問題の解消には、最低でも避難者80人に1つのトイレが必要であるというデータがあります。100人に1つのトイレがあるとさらに良いという研究結果もあります。

このため各避難所には、100人に1つトイレが用意できるように市町村では…

  • ポータブルトイレ
  • 使い捨てトイレ
  • マンホールトイレ

といった非常用トイレの設置を進めています。自宅避難でも使えるポータブルトイレは近年安く手に入るようになってきています。

おすすめなのは、アウトドアでも使えるタイプのものです。軽くて安価に手に入ります。ただ、肘掛けがないので高齢者には不向きです。高齢者向けのものは数万円しますが、家族構成によって必要なものを選択しましょう。

避難所でのプライバシーの守り方

避難所ではプライバシーを守ることが困難

避難所のほとんどは、体育館か自治会館などの公的施設。世帯ごとに分けられるような個室はありません。顔はもちろん、電話の内容すら聞こえてしまいます。

充実した避難所

避難所に予算をかけている市区町村なら、ダンボールなどの簡易的なしきりを備蓄していることもありますが、ほとんどの避難所にはありません。備蓄するスペースがないため、長期避難が濃厚となって初めて国や都道府県から配送されてきます。

生活する場所とはいえ、気を緩めず名前や電話番号などが簡単に知られないように注意しましょう。特に、だれかと電話する場合はあだ名で呼んだり、住所を正確に言わないようにしたほうが無難です。

避難所の防犯レベルは夏の砂浜程度

体育館などの避難所では、お花見や海水浴場のように、レジャーシートやブルーシートだけがお隣との境界線となります。つまり「カベがない」ので、何もかも丸見えです。

少しくらいならと安易にその場を離れないようにしましょう。避難所を狙う窃盗犯も存在します。

避難所の防犯レベルは夏の砂浜程度

窃盗や置き引き

どこに財布があるのか、どこにスマホが置かれているのか、着替えはどこか、高価そうなノートパソコンやタブレットなど、遠くからでも見えてしまいます

自分の避難場所を離れる場合は、だれかが荷物の見張り番をしておきましょう。逆に、おとなりが単身の高齢者や一人暮らしの学生などなら見張り番を引き受けてあげることも考えてください。

避難所をねらう窃盗などの犯罪に注意

その他の軽犯罪

避難所では夜に女性一人で歩くのはやめましょう。また、トイレに行くときは昼間であっても、必ず複数人で行きます。簡易トイレの中に入っているとき、スマホで撮影されたり覗き見られるといったことも報告されています。

自分の身を守る一番の手段は、なるべく大勢でいることです。避難所での人間関係はなるべく広げておきましょう。

女性に限らず男性でも被害に合うことがあります。平常時のように警察官がパトロールできない状況なので、どうしても軽犯罪が増えるのです。男性でも下着を盗まれることもあります。

避難所ではできるだけ複数人で行動します

長期避難所生活では自分を守ることが重要

長期間、避難所の生活をすることになると、どうしても軽犯罪が起こりやすくなります。

反面、警察官や役所の職員は避難所運営や救命活動に専念しているため、軽犯罪に気づけなかったり防犯対策が行き届かなくなります。

海外旅行しているときと同等の危機意識を持って行動するようにしてください。手荷物は必ず身につける、周囲の音を気にしておく、どんな人が周りにいるのか目を配るなどです。

それでも一人の注意だけでは防げないのが犯罪です。自己防衛のためには集団行動が原則です。避難所内で、少しでも知り合いを増やしておくことが長期避難の防犯対策になります。

長期避難所生活では自分を守ることが重要
避難所では人間関係の構築が重要

仮設住宅避難になったとき

大災害により広範囲に甚大(じんだい)な被害が発生すると、家屋倒壊などのために帰宅できない可能性があります。

仮設住宅避難になったとき

再建できるまでの間は国の特別予算によって緊急的に仮設住宅を整備する場合があります。

自宅の再建には時間とお金がかかります。戸建てなら場合によっては半年で建て替え可能かもしれませんが、分譲マンションなどは数年かかるのが現実です。

わたしが実際に見た中で印象強かったのは、阪神淡路大震災のときに甲南大学(兵庫県神戸市の有名私立大学)のグランドに建設された避難所です。プレハブで建設されましたが、半年以上も仮設避難所内で生活せざるを得ない避難者を守り続けていました。

仮設住宅は誰でも居住できるものではなく、高齢者や子育て世帯、女性などへ優先して割り当てられます。

運良く仮設住宅に住むことができるようになったら、できるだけ近くの避難者と交流を持っておきましょう。万が一、体調不良や怪我をしたときなどにお互い助け合えるメリットがあります。

また、仮設住宅でなくとも避難所で長期避難が濃厚となった時は、自宅に避難先を貼り付けておくようにしましょう。

自宅に避難先の掲示をしておく場合は個人情報を書かないように注意

ただし、すでに自分の安否を十分に伝えられている場合は張り紙をしないでおくことをお勧めします。長期避難していることを明示することにもなるため、空き巣被害に会う可能性があるからです。

追記:避難所運営にご協力をお願いします

避難所では備蓄品の管理、怪我や病気になっている人の介助、高齢者や乳児を連れた避難者への声がけ、防災本部との連絡、食料品の配布、安否確認のために外部から訪ねてくる人の対応、給水車の受け入れなど、さまざまな作業があります。

しかし、自衛隊も消防隊も役所職員も、道路の断絶や2次被害の対応などで、避難所に到着できるとは限りません。基本的には3日間程度は避難者自身が避難所を運営しなければならないのが現実です。

追記:避難所運営にご協力をお願いします

3日間はだれも助けに来られないと想定して、避難所に到着した人から順に可能な範囲で避難所運営を開始してください。具体的には次のような作業です。

  • 避難所の入り口を開ける
  • 防災倉庫を開けて、毛布などの寝具を避難所に運び込む
  • 備蓄食料品の数を確認する
  • マニュアルを探して回覧する
  • 夜に向けて、電源の延長コードを探し、電灯を配置する
  • マンホールトイレを組み立てる
  • 避難者受付を作り、名簿に書き込んでもらう
  • 定期的に食料品を配る
  • 避難所パトロールをする

以上の作業は、年に数回ある防災訓練に参加することですぐにできるようになります。

数年に一度で構わないので、自分が避難する避難所の防災訓練に参加してください。防災倉庫の場所を知るだけでも十分な成果になります。また、非常時専用のご飯の炊き方や、避難所の備蓄品を知ることも有益です。

特に、子育て世帯の場合は、両親が市外に通勤していて非常時に子供と連絡が取れない可能性があります。家族全員で参加して、子供だけでも避難ができるようにしておくことをおすすめします。

まとめ〜長期避難に重要なのは冷静な判断

避難所では、すべての人が被災者です。助けられる側も助ける側も全員が被災者です。

避難所は被災者同士の助け合い

だれもが不安をあらわにして、自分の権利だけを主張してしまいがちです。権利を持つもの同士がぶつか有り合っても正解がないので決着が付きません。

だからこそ、「正解はなにか」ではなく「どうすることが穏便に解決できるか」を考えられる「冷静さ」や「人間としてのプライド」が重要だと思います。

体力のある人が、体力のないものを守る。得意な人や専門知識や経験のある人が役割を買って出る。

地域自治の底力が有事にこそ発揮できると思います。誰と競争するものでもない、一日も早い復興を進めるのは、住民の心意気が根幹にあります。

今この瞬間に自己主張するのではなく、将来につながる町の復興も見据えて、周りに優しい避難生活をしていただければと願います。

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